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コラム
 

第5回「天長地久」

 私は2007年の7月、中国の雲南省を旅しました。目的は、4,000~5,000mの高山に咲く花々の、受粉の様子を撮影するためです。
 4,000mを越す場所で重いカメラを担ぎながらの撮影は、かなりの肉体的苦痛と疲労を伴います。
 初めての場所に興奮した私は、花を見つけると駆け寄り、写真がぶれないように息を止めて撮影をします。

 写真を1枚撮影するために、約1分間は息を止めなくてはいけません。
 ついに息を止める限界が来た時に立ち上がり、息を吸おうとするのですが、吸っていいのか、吐いていいのか、分からなくなり焦ります。薄い空気の中で自分の肺の状態がわからず、一瞬のことですが呼吸困難に陥るのです。苦しさに耐え切れず、深呼吸をしようとすると、呼吸は止まり、気が遠くなっていきます。
 そうと分かっていても、早く撮影しなければと焦り、急いで近づいて、息を止めてバチバチと撮影して、ガッと起き上がり、七転八倒する。こんなことをやっていたら自分もきついし、花や虫だって驚くはずです。

 息をつくために立ち上がり、眼下に広がる広大な景色を見て気がつきました。
 焦らず、落ち着いて、ゆっくりと呼吸をもどしてゆくのが最善の方法だったのです。
 呼吸をもどす時だけではなく、花を見つけた時から、すべてゆっくりと行動することが最良の方法でした。花を撮影している時も、肩の力を抜いて軽く息をする。そうすることにより、花や虫の空気が読め、より良い写真が撮れるのです。
 花も虫も、私のように急いではいないことに気がつきました。
 この「ゆっくり」ができるようになったわけは、目の前にあるものだけではなく、全体を見るようになったからです。

  山での撮影を終えて、麗江の町で数日を過ごしました。古い町並みが再現されており、一見に値します。その建物のほとんどが土産屋さんと食堂になっているのは興ざめですが、建物と町並みのせいか、空気の流れが実にゆったりとしているのです。
 その中に一軒の判子屋さんがあり、その場で印鑑を彫ってくれます。私は旅の記念にと、自分の名前をトンパ文字(現在に生きる世界唯一の象形文字)にしたものと、封印用の角判を作りました。角判には、お店の人に勧められた「天長地久」をトンパ文字でお願いしました。
 判子屋さんから「天長地久」とは老子の言葉で、「家庭円満と永遠の宇宙を意味する」と聞きました。身近で大切なことほど宇宙の流れで考えなさい、と私は自分勝手な解釈をすることにしました。

麗江の風景/トンパ文字の印鑑〜「天長地久」

 判子が出来上がり、ためし押しをした瞬間、文字からは楽しい家族とゆったりとした時間が流れ出し、この世では何事も急ぐ必要がないことを、改めて知らされたのです。

文・写真:ジャポニカ学習帳「世界特写シリーズ」取材班 山口 進

 
 
 
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