
今年(2008年)5月、私は地元の人たちと協力して、「雑木林を保全する会」を立ち上げました。既に全国から100人近い方々の参加応募があります。
私が山梨県の北部(北杜市)に住むようになったきっかけは、美しい雑木林と、そこに住む生き物の多様さでした。
雑木林は、基本的には自然林ではありません。人々が生活のために作り出した、人工林です。
少し前までの生活に必要なエネルギーは炭や薪で、すべて雑木林からまかなわれてきました。薪炭を作るために、人々はクヌギやコナラなど落葉広葉樹を集中的に植え、雑木林を作りました。雑木林は定期的に伐採され、落ち葉などは堆肥として利用されました。そのため、いつも人が入りこんで、美しい状態に管理されたのです。
落葉広葉樹林には、冬から春にかけて林床に日が差し込み、微生物や小動物を育てました。夏には葉が生い茂り日陰を作ったので、生き物にとっては住み心地のよい環境ができあがったのです。クヌギやコナラは樹液を出して虫を誘い、広葉樹の葉は昆虫たちのエサとなり、それに集まる鳥や獣も増えました。
人が作り出した雑木林のお陰で、様々な生き物が一緒に生活できる場所が生まれたのです。
北杜市に住み始めて約10年。魅力的な雑木林に、大きな変化が現れました。エネルギー源の変化により、雑木林が利用されなくなり、放置が始まったのです。
その結果として、ネザサが繁茂し始め、木々は伸び放題に伸びて、林床には日が当たらず、人も生き物も入り込めない環境になりました。当然、生き物は急激に減少し、雑木林はなかば廃墟のような姿になってしまったのです。

北杜市には、他の地域の雑木林と少し違った林の利用法がありました。それが「クヌギの台木」です。
つまり、柔らかな葉がついた小枝を田んぼの栄養として敷き詰めるために、クヌギを途中から切り、小枝をたくさんのばす方法を考えたのです。50年、60年と利用するうちに、クヌギは異常に太くなり、多くの樹液をさかんに出し、幹には穴が空き、昆虫に隠れ家を提供しました。
しかし、田んぼの栄養として化学肥料が使われ始めたために台木は放置され、台木から昆虫の姿は消えました。
そこで、私たちは雑木林に手を入れて、もとの美しい林を取り戻そうと考えました。
既に14ヘクタール近い雑木林の提供を受け、ネザサ刈りが始まりました。まだ2回目ですが、林は格段と明るく、風が通るようになりました。すると、昆虫や鳥が、林に吸い込まれるように戻り始めたのです。あと2、3年もすれば、春から秋にかけての林床は、花で埋め尽くされることでしょう。
雑木林は、現代の生活様式の中では利用が難しい存在です。しかし、林を経済的な価値だけで考えるのではなく、人をはじめとする生き物たちが気持ちよく共生できる場所として考えれば、これほどに価値がある場所は、他にありません。
クヌギの台木を保全するために、私たちは「クヌギのオーナー制度」を作りました。個人が台木を、自分で管理できるように考えたのです。
これらの活動がいつまで続けられるか解りません。しかし、人々の意識が続く限り保全は可能だと、私は信じています。
世は正にエコブームです。私は、「足元を見つめること」が最大のエコロジーだと考えています。
文・写真:ジャポニカ学習帳「世界特写シリーズ」取材班 山口 進
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