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コラム
 

第19回「俳優、緒方拳さんのこと」

 2008年10月5日に、俳優の緒方拳さんが亡くなった。もともと私は、芸能関係にはほとんど興味がないのだが、緒方さんなど数人の俳優や女優さんには、心惹かれるものを感じていた。

 2006年9月、私はある調査に参加するために、マレーシアのサラワク(ボルネオ)にある、ランビル国立公園に滞在していた。
 その時、偶然にも、NHKのスペシャル番組「プラネットアース」の取材班が、同じ場所に滞在していた。偶然は重なるもので、その番組のディレクターは、私の友人であった。不思議な場所での出会いに、興奮しながら話が弾んだ。
 聞くと、緒方拳さんが来ているらしい。

 数日後、大掛かりな撮影が始まった。
 緒方さんは、熱帯雨林の林冠(木の上)からの実況をするために、樹高70mほどの木の上からロープでぶら下がる、という設定だ。
 朝早く、小柄な緒方さんが森に現れた。背中をまっすぐにしてりりしく歩く姿は大きく、遠くから見ていても憧れを抱くに十分だった。
 イギリス人のクライマーが、樹上60mほどの場所までロープをかけてゆく。まるで猿のような早業だが、大きな危険を伴う作業に、みな息をのんで見守った。

 「スタンバイ」の掛け声とともに、撮影が始まった。
 ブランコのような簡単なゴンドラに乗った緒方さんが、時間をかけて地上60mの樹上にたどりつく。そして実況が始まり、緒方さんの張りのある声が森に響いた。
 撮影は2、3日をかけて終了し、私たち調査班もランビル国立公園を後にした。

 私たちはランビル国立公園から2時間ほどの町のホテルに投宿したのだが、そこで再び緒方さんにお会いし、朝食をご一緒することができた。口数少ない緒方さんだったが、なにか燃えるような迫力を私は感じていた。
 私の横に座られた緒方さんに、ただただ圧倒されていた。

私のTシャツにサインをする緒方さん。

 それから二年後、逝去の報が流れた。71歳、ガンを患って長年の闘病生活であったという。それを聞いて、あの撮影時、すでに闘病中であったことを知り、大きな驚きを感じた。
 木に登るのはクライマーの助けがあったとしても、あの木にたどりつくまでは、どろどろで蒸し風呂状態の密林の中を、小一時間もかけて登坂しなければならない。頑強な私ですら、嫌になる道だ。ましてや、闘病中の緒方さんにとっては、どれほど大変だったことだろう。その気力と熱意は、亡くなった今、さらに私を圧倒する。

 人間の魅力とは、自分に対する厳しさなのかも知れない。緒方拳さんの訃報から、そう再認識した。

文・写真:ジャポニカ学習帳「世界特写シリーズ」取材班 山口 進

 
 
 
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